サントリー、ウイスキーの誘い

サントリー、ウイスキーの誘い――直営バー、料金明示で若者安心感。
2012/12/28 日経MJ(流通新聞)

スタッフに接客研修、工場見学も 協力店に認定証、ノウハウ提供

 若者の車離れや酒離れが言われて久しい。自動車や衣料品などと同じく、少子高齢化に直面する酒類業界にとっても若者客の取り込みは重要なテーマだ。そんななか、サントリー酒類は価格設定や接客サービスに工夫を凝らしながら、高級ウイスキーをうまくアピールしている。新型店を訪ね、サントリー流のアプローチ術を探った。
 有楽町駅からほど近いビルの地下1階にある、サントリー直営のバー「ウイスキー・ボトル・バー・デン・日比谷」。入り口の戸を開けると、スーツ姿の女性スタッフが出迎える。木をイメージした内装の店内には「山崎」「響」「白州」などのボトルやグラスが壁一面にずらりと並ぶ。カウンターに座るとまずメニューが提示され、料金などの説明を受ける。
 一般的に、バーは紹介者がいなければ会計でいくらかかるか分かりにくく、初心者には敬遠する傾向も強い。同店では若者などの新規顧客を開拓するため、価格を抑え、明朗会計の仕組みを採用。来店直後に料金を説明し、まずは不安を感じず気軽に利用してもらうよう配慮している。
 男性で5000円、女性で3000円の席料(ソーダや水、氷などを含む)が必要だが、メーンとなる高級ウイスキー「響12年」を1本9000円と1万円を切る価格でボトルキープできる。キープした顧客に高級感のある黒いカードを渡すなどの仕掛けも、来店客の心をくすぐっている。
 11月から12月下旬にかけては東京・六本木で「ウイスキーヒルズ」と称するイベントを開催。「響」「ザ・マッカラン」などを期間限定で1杯200円で味わえるようにしたり、イベントに参加する飲食店で出すウイスキーの最初の1杯を100円にしたりした。
 2013年1月中旬には「山崎」「白州」などの350ミリリットル瓶と天然水の「ザ・プレミアムソーダ」をセットにしたバレンタイン商戦向けの商品を発売する。価格を1750円(税別)にして若者も買いやすいようにした。ハードルを下げるため、あの手この手の集客策を繰り出している。
 コミュニケーションが苦手ともいわれる若者を引き付けるには、会話などの接客を手厚くしてファンになってもらうことも有効だ。「普段からウイスキーはよく飲まれますか」「珍しいお名前ですね」。「デン・日比谷」では女性スタッフが来店客に気軽に話しかける。「せっかくの高いお酒なので店の雰囲気と合わせて楽しみたい」。初めて来店した都内の30代男性は話す。
 スタッフにはウイスキー提供の技術や知識、会話や立ち居振る舞いなどの研修を約3週間かけて施す。蒸留所にも出向いて製造工程を見学させるほど、教育には手間暇をかけている。「デン・日比谷」では、15人のスタッフのうち半数がこうした研修を経て社内資格「ウイスキーコンシェルジュ」を取得して接客にあたっている。
 来年4月には、大阪市に開業予定の複合施設「ナレッジキャピタル」でも直営店を開く予定だ。一般の飲食店を巻き込みながら若者への浸透を図っているのもサントリー流。高級ウイスキーを明朗会計で提供し、広く楽しんでもらうというコンセプトを共有する飲食店を認定する制度を設けている。
 各店にはコンセプトをチェックしたうえで認定証を発行する。さらにおいしいウイスキーのつくり方の講習、接客マナーの研修などを原則的に無料で提供。サントリーの直営店は数店にとどめ、12年末までに認定店を首都圏と近畿で30店程度、13年末には全国100店前後まで広げて普及の原動力にする。
 「高級ウイスキーを体験する機会を増やし、ユーザーの裾野を広げる」。サントリー酒類の郡山仁志スピリッツ事業部企画部長は説明する。
 同社はこれまで「ハイボール酒場」と呼ぶ飲食店を広げて「角瓶」の販売拡大につなげた実績がある。利用しやすい価格設定など、ホテルや高級飲食店とひと味異なる工夫を凝らし、新たに入ったウイスキーのライトユーザーを高価格帯の商品に誘導。外食店を家庭での消費拡大につなげる狙いだ。
 こうした取り組みが功を奏し、サントリーでは角瓶や缶入りハイボールに加え、高級ウイスキーの販売も伸びてきた。響、山崎、白州の高級3ブランドの1~10月の販売実績は前年同期比で約4割増えた。同社のウイスキー全体の販売量は今年、623万ケースと前年を3%上回る見込みだ。
 ウイスキーのような高額品の消費低迷は景気低迷や顧客の節約志向が原因とされがちだが、売り手が顧客に直接アプローチして先入観や抵抗感を取り除き、商品の楽しさを伝えればまだまだ拡大の余地はある。サントリーの取り組みはそんな可能性を示していると言えそうだ。

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